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鎌宮諏訪神社・天災除けのタブノキ Machilus in Ishikawa 

ご神木に鎌を打ちつければ、嵐が逃げていく
500年間、今も続く能登の神事

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DATA of TREE
▽樹種:タブノキ(クスノキ科・常緑高木) 
▽学名:Machilus thunbergii 
▽樹齢:約500年
▽樹高:約5m/幹周り:約5.5m
▽所在地:石川県鹿島郡中能登町金丸寺洲端 鎌宮諏訪神社
(2010年8月撮影)

【木の特徴】
出会った瞬間、ギョッとした。鎌の刃が幹にぐさぐさと打ちこまれたタブノキ。ご神木というより、おどろおどろしい妖気を放った魔物のような姿。錆びて茶色くなった刃はじつは、能登に500年続く、嵐除け、災厄除け「鎌打ち神事」の跡なのです。1年に2本、打たれ続け、毎年増えていった鎌がこれだけ並ぶと異様な気を放ってくるようで、ご神木なのにちょっと怖い。よく見ると、古い鎌は樹皮に埋もれて、木が自分で傷をふさごうとしているのが痛々しくもあり、自然治癒力のすごさも感じます。鎌が打たれた木のそばには何も打たれていない若い木が立っていました。それは幹が鎌でいっぱいになったときのために育てられている若いタブなんだそう。この木のそばに立っていると、子々孫々、家族の健康と幸せを願い、この神事を永遠に続けていこうとする地域の人々の願いが伝わってきます。
★この木を見るポイント⇒ 根元から上のほうまで打たれた鎌。昔に打ち込まれたらしき鎌には樹皮が覆いかぶさり、傷をふさごうとしている。

【歴史を伝える】
能登に五百年続く「鎌打ち神事」の跡。毎年8月27日、豊穣の秋を前に、風神を祀り、暴風雨や雷を封じ込める奇祭です。装束を身につけた氏子(うじこ)の代表が、稲穂と白い木綿の布を結びつけた鎌2本を幹に打ちこみます。こうすると、嵐や竜巻をもたらす風の神様が鋭い鎌を恐れて逃げていくと信じられたからです。古代から始まった神事が何百年も経て現在も脈々と伝えられているのは、能登の人々が自然を畏怖し、敬う心を失わないからだと思います。ご神木のほかに社殿はなく、小さな小さな、見過ごしてしまいそうな、古ぼけたお社(やしろ)がちょこんと建っているだけでした。

【この木に会いに行こう!】
JR七尾線「金丸」駅から徒歩約10分。

【タブノキは災害に強い木】
タブノキは日本に自生する木。常緑で、冬の間もつややかな緑を絶やさない木です。幹や根元にコブがいくつもできるのが特徴で、荒々しく、生命力あふれる姿に成長します。「タブ」という言葉は、「たましい、たび、賜ぶ、食ぶ」に通じるとされているように、ご神木に多い木。能登の神事のように、地震、台風、火災、水害などから人々を守ってきた木です。2007(平成19)年、能登や越後で大地震が発生したとき、多くの人が被災し、大きな被害をもたらしました。震源地に近い輪島市門前町の興禅寺の御堂は全壊しましたが、境内のタブノキは堂々たる姿のまま生き残り、命を守るタブノキのシンボルとなっていまる。かつて、タブノキが倒壊しかかった家屋の支えとなり、人々の命を救ったこともあったといいます。タブノキのように古代よりこの土地に生育する木は、根が大地の奥深くまで伸び、地下でも根を縦横無尽に這わせるため、大きな地震でもめったに倒れることはないと信頼されています。「生命を守る木こそ、神木、霊木。そして、招福の木でしょう」と案内してくださったFさんです。元気かなあ、Fさん。国内でも能登はタブノキの多い土地であり、「のとキリシマツツジ」とともに、能登の木と花に指定されています。(2020.11.13加筆)